指揮台上の快男児
『指揮のおけいこ』 岩城宏之 文春文庫
無茶苦茶おもしろい。やがて、とてもさみしい。
著者のマエストロ・イワキは日本人の代表的な指揮者が海外を飛び回って活躍することになった最初の世代のひとり。エッセイは多くものしたらしいが、この一冊で初めて読んだ。
文章は破天荒だ。まず、誰に向けて書いているのか、どこまで本気なのかがわからない。指揮者の卵に対する真摯なアドバイスと素人音楽ファンへのサービスたっぷりの笑い話が渾然一体になっていて、話もあちこち飛んでまとまりがない。だが、音楽への情熱と指揮することへの誇りが、正面きってどんどん伝わってくるのだ。「自分が表現したいことが、指揮台の上で逆立ちすることでしか表せないなら、そうすればいい。」--この部分だけ切り出すと誤解されかねない危険はあるが、生きる姿勢を真っ直ぐに述べていて爽やかだ。快男児である。
Wikipediaで検索してみて驚いた。ちょうど一年ほど前に亡くなっていた。もっと早く知っていたなら、生前の活躍に臨場する機会は十分にあったのに。2004年と2005年の大晦日にはベートーヴェンの交響曲を全曲一人で指揮したという。クラッシック音楽には生きるパワーを込めることができるのだ。本文の最後、「死ぬまで元気男をやって行くエネルギーを持つことにした。」を改めて読むと、シンとして、やがて拍手を送りたくなった。
感想を詳しく書きたいエピソードもいろいろあるけれど、本文の邪魔だから書かない。マエストロ・イワキのエッセイを読んだことがない方、ぜひ一読をお勧めします。
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